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札幌家庭裁判所 昭和51年(日記)4451号 審判 1977年1月17日

申立人

山花波子

上記代理人

下坂浩介

主文

本件申立を却下する。

理由

第一本件申立の趣旨

申立人と川端草夫間の当庁昭和四七年(家イ)第五一一号離婚による慰藉料請求調停事件につき調停期日の指定を求める。

第二本件申立の理由の要旨

申立人が川端草夫に対し同人との離婚に伴う慰藉料の支払いを求めた申立の趣旨掲記の家事調停事件につき、昭和四七年六月一〇日の調停期日において、「川端草夫は申立人に対し見舞金として金五〇万円を支払う。申立人は川端草夫に対する離婚に伴う慰藉料請求権を放棄する」との趣旨の調停が成立したのであるが、前記調停は同請求権の時効が完成していないにもかかわらずこれが完成しているとしてなしたもので無効であるから、同事件についての調停のため調停期日の指定を求めるというにある。

第三当裁判所の判断

一申立の趣旨掲記の家事調停事件記録によれば、申立人は昭和四七年三月七日釧路家庭裁判所に対し、川端草夫を相手方として婚姻解消に伴う慰藉料請求の調停申立をしたところ同裁判所はこれを当裁判所に移送し、これにより前記事件は当庁に申立の趣旨掲記の家事調停事件として係属し、昭和四七年六月一〇日の調停期日において家事調停委員会あつ旋のもと、当事者間に「相手方は申立人に対し、見舞金として金五〇万円の支払い義務があることを認め、これを昭和四七年六月末日限り札幌家庭裁判所に寄託して支払う。申立人は相手方との間に離婚に関する一切の財産上の請求権がないことを認める。」との合意が成立し、これが調書に記載されて調停の成立をみたことが認められる。

二よつて前記のように成立した調停の条項が無効であるとして、当事者が当該調停事件につき更に調停期日を指定すべきことを申立てうるかについて以下判断する。

さて、家庭裁判所に係属した家事調停事件について本質的調停行為を行ない当該事件を処理する機関は家事調停機関(家事調停委員会又は、手続法上の家庭裁判所すなわち調停裁判所において家事審判官のみで事件を処理することと定めた場合の家事審判官)であることはいうをまたない。そして当該調停機関は当該調停事件処理のため認められた権限を行使するものであるところ、調停期日の指定権限は調停機関に認められた権限の一つである。

ところで、調停の成立が当事者間における合意の成立のほか調停機関による合意の相当性の判断を経由するが故に、当事者において成立した調停の無効を主張しうるかは一個の問題であるが、その無効を主張しうるとして、しかしそれが故に当該調停事件について更に調停期日の指定を申立てうるものと解することはできない。

そもそも、かかる申立があつた場合に、更に当該調停事件につき調停期日を指定すべきものとするには、調停機関においてさきに成立した調停の有効、無効を有権的に判断宣言する権限すなわち裁判権を有するとの前提がなければならず、調停機関にこの権限が認められてはじめて、調停機関はさきに成立した調停の効力を判定し、その効力を否定すべき場合において改めて調停手続を続行しうるのであるが、裁判機関でない調停機関が前記の裁判権を有しないことは多言をまたない。そうだとすれば、調停の成立をみた当該調停事件について更に調停期日を指定することはそれ自体無意味であり、当事者は無意味な期日指定を求める利益を有せず、従つて当事者にかかる申立権を認める理由はない。また調停機関としても、かかる申立に応じて当該調停事件につき更に調停期日の指定をすることができないというほかはない。

もとより成立した調停の無効を主張する当事者は、訴訟裁判に対し調停無効の訴訟を提起できるであろうし、また調停の内容が給付にかかるものであれば、請求異議訴訟を提起することができるであろう。

更には当該調停事件が訴認事件から調停に付せられたものであれば調停の無効を主張して受訴裁判所に対し当該訴訟事件についての弁論期日の指定を申立てうるであろう。ただし家事審判法第九条第一項乙類の審判事件が調停に付せられた場合においては、当事者が調停の無効を主張して審判期日の指定を申立てうるか、そして審判裁判所において審判期日を指定すべきかについては疑問がある。なぜなら審判裁判所において調停の効力の紛争(訴訟事項であろう)についての裁判権があると解することは困難であるからである。

三以上の次第であるから本件調停期日の指定の申立は失当であつて却下すべきものである。よつて主文のとおり審判する。

(藤原昇治)

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